「ぼくのコーヒー地図」書評 田尻 久子(熊本 橙書店)

コーヒーは、私にとって特別な飲み物だ。間違いなく、水以外では人生でいちばんたくさん飲んだ飲み物だろう。美味しいに越したことはないが、珈琲を欲しているときは、たいして美味しくなくても平気だ。自販機のコーヒーも、コンビニのコーヒーも、ランチの煮詰まったコーヒーだって飲む。水以外と書いたけど、もしかしたら水よりコーヒーを飲んだ量のほうが多いかもしれない。今日だってコーヒーは3杯目だけど、水はコップ1杯ほどしか飲んでない。

岡本さんの本に出てくる店はどこもすてきだ。コーヒーも多分美味しいに違いない。行ってみたいなと思う半面、私の場所ではないしなとも思う。私の記憶の中に大事にしまってある喫茶店は、ひとつ残らず閉店してしまった。すてきな店もあったし、平凡な店もあった。連れ立って店に行った人や、コーヒーを飲みながら感じたことも一緒に覚えている。懐かしい思い出も、苦い思い出もある。そんなことを思いながら本を読んだ。だから、すてきな店やメニューの写真を眺めながら、私の心はそこにはなかった。

この本を片手に旅をして、全国の喫茶店をまわる人もいるだろう。でも、この本を片手に記憶の旅に出ることもまたよろこびなのだ。