
瀬戸 更紗 副社長
暑中お見舞い申しあげます。
今年は3月末から東京にあたらしいお店をオープンしました。カフェクラフテルンって言
います。お店は神楽坂にあります。
毎日、藤野から中央線に乗って中野で乗り換え、東西線で片道1時間半の通勤生活という
のは何もかも新鮮です。
毎日長時間通勤するなら、やらない手は無いと思って始めたのが、モーニング読書、略し
てモー読です。
子供の頃はそれなりに本に親しんでいたのですが、お店を初めてからは読まなくなった本
。もはや老後の楽しみにするしかない。とある先輩に言ったら、
「みんなそう言うけど、結局老後を迎えてみれば、体力も気力も落ち、なんなら視力も落
ちてまるで読まないよ」というじゃないか!
結局、老後は、老前にやった習慣しか残らない。明日やりたいことは今やるべきですよ。
いつ死ぬかもわからないんだから。と、ありがたい先達は言った。
そんなわけで、始まったモー読。
そんなわけで、夏目漱石である。
正直、胃の悪そうな、明治の文豪としか思ってなかったよ。
坊ちゃん。読んでビックリしたわ。勝手に引用します。
親譲の無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降
りて一週間ほど腰こしを抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知
れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に
、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからであ
る。小使に負ぶさって帰って来た時、おやじが大きな眼をして二階ぐらいから飛び降りて
腰を抜かす奴があるかと云いったから、この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。
何がビックリって、これってブログ的っていうか、ホントはこんなに上手く書かれたブロ
グなんてないですけど、私たちの慣れ親しんだ文体ですよね?
慣れ親しんだ文体なのに、もっと昔のようなこの感じに覚えはありませんか?
たぶん、このノリは和歌なのだ。漱石すげぇ!
親譲の無鉄砲を枕詞に、ながいながい和歌を歌っている。
一貫して親譲の無鉄砲が物語に響いている。
ある人物の目線で語っているのに、その人物の感情は殆ど書かれていない。
なぜなら、それは歌だからだ。
ムカついただの、嬉しかっただの、そんな言葉は歌では無い。言わないで言う。それが歌
なのだ。
つまり、枕草子だ。また引用します。
夏は夜。月のころはさらなり。やみもなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、 ただ一つ二
つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。
これも、自分目線で言っておいて感情に関わる言葉は「をかし」くらいです。
でも、「ですよね。」って思いませんか?
え、こういう表現方法ってもしかして「日本のココロ」ってやつなの?
あんまりにも驚いたから、オーヤにまるで自分の新発見みたいに言ったら、「だって夏目
漱石はキンダイ文学のはじまりやん、ジョーシキ」と言われた。
そ、そうなのか、ジョーシキなのか、じゃあ私は同じ漱石を知らない人たちに言いたい。
あなたが書き散らかしている自分語りの向こうには夏目漱石も清少納言もいるんだよって
。
味にしたって、そうである。鮎だったり、青瓜だったり、茄子だったり、単なる材料を歌
に変換していくのが「日本料理のココロ」なんじゃないかと思う。
そういう意味では、コーヒーも私たちがやる限り、勝手に日本語の味になってしまってる
のだろう。輸入品なのに。
最近、若いころは気にならなかったことが気になってくる。
「フランスの片田舎のようなお店にしたかった。」ってなんで?
フランスの片田舎に縁もゆかりもないのになんで?それってなんか関係あるんですかね?
京都の片田舎や千葉の片田舎みたいなお店にしないのはなぜなんだ!
まだまだあるぞ。オールドスクール系の若い人のコーヒーショップで、パッケージに産地
しか書かれてないのを見て、セトはくらーい気持ちになります。
オオヤと一緒にやってきた、豆のトレサビリティや焙煎度を明記する。という企業努力が
、自分達より若い世代にまったく受け継がれず、自分勝手ポエムみたいな味の解説を見る
度に、そんなものはポエムじゃない。加藤ミリヤじゃあるまいしさ。とつい老害を発揮し
たくなってきます。完全に中年の愚痴です。
結局、オールドスクールなんて雰囲気でしょ?って言われても仕方ない。
プロでもなければ、ビジネスでもないって言われても仕方ない。
みんな同じことを何回も繰り返すのだ。
人間は進歩なんて全然しない。なぜなら120年くらいしか生きられないし、遅れてきた若
い人たちは、先達の言う事なんて継承しないんだから。
夏目漱石がヤバいと思った以上に2026年はもっとヤバいです。みんながヤバいって言って
ていたのにこのありさま。
そんな感じで、ことしも激しくもあたらしい夏を送っています。
またどこかでお会いしたら、今読んでる本について教えてくださいね。
